園芸(gardening)部屋



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 横浜の中央部に位置する「新横浜」から、最北端の「元石川町」に引っ越したのは1996年5月でした。「住めば都」ということわざのとおり、20年以上住んでいた新横浜での生活の日々は、しだいに「想い出」の引き出しにおさめられ、ここ元石川での生活が「日常」となってきました。7年間の歳月の中でつくりあげられてきたこの「地域」でのつながり、「隣近所」との関わりも含めて、「この場所」が私の「生活の場」となっているのです。
 この一帯は、かつて「横浜のチベット」といわれた山奥の「不便」なところだったそうです(これは、チベットにとって、差別的な表現なのでしょうね!)が、急激に宅地化が進み、今は、どこにでもあるような新興住宅地になっています。今、私が住んでいる谷戸(やと・里山に囲まれた渓流ぞいの地域)だけが、かろうじて住宅開発の対象からはずれて、昔の姿をとどめているようです。
 しかし、谷戸を流れる渓流も、周辺地域の開発のために、水脈が絶たれ、今ではほとんど水が枯れかけており、川沿いに作られていたという水田も、畑や宅地となり、一部は荒れ地のまま放置されています。
 谷戸を通る道路は、のんびり歩いても10分ほどの狭い(車のすれ違いが不可能な)生活道路です。そんな小さな谷戸の中にも、小さな池(沼?)があります。日照り続きの夏には干上がってしまうこともあるのですが、今年はそんなこともなく、ときどきは、カモや小さな白鳥が、ザリガニなどのエサを求めて、姿を見せています。
 今や絶滅に瀕しているという「日本タンポポ」がまだ生き残っていおり、西洋タンポポが着々と勢力を広げている中で、けなげに咲き続けています。西洋タンポポを見つけると、引き抜いているのですが……。
 その気になれば(「誰が」という主語は書くまでもないと思うのですが……?!)、たちまち消されてしまう大都市の中の小さな谷戸なのです。
 私の自宅アパート前を通る谷戸の道路沿いには、緑色にペンキが塗られた高さ5メーmichibata kadanトルほどの鉄板の塀がめぐらされています。その内側は広い竹林となっていて、その一角が、建設会社の資材置き場となっていました。10年以上にわたってコンクリートやアスファルトの瓦礫(がれき)が積み重ねられ、その圧力のため、鉄板の塀が道路側に傾いてきているところもあり、いつか倒れてくるのではないかと心配になります。ところどころ緑のペンキのはがれた高い塀は、「自然」と「人間」を切り離すかのように立ちはだかっています。昨年、事情があって(この事情の説明は今は省略しますが)、会社は撤退しました。しかし、塀も瓦礫もそのまま残されています。
 私が引っ越した当時、その塀とアスファルト道路との間に、長さ20〜30メートル、幅1メートルほどの砂利地がありました。何の風情もないこの道路沿いの道端を見るたびに、ここに花を植えたら……と思いました。しかし、たとえ「砂利と、塀の内側の竹やぶから絶え間なく降ってくる竹の枯葉」に埋まり、スコップも通らない「荒れ地」とはいえ、一応他人の土地なのです。勝手に「改造」するわけにはいきませんが、堆肥や腐葉土を買い込んでは、少しずつ土盛りをし、さりげなく花を植えてきました。
 しかし、土地の所有者からはクレームもつかず、こうして、「荒れ地」は、立派な(?!)花壇となり、四季おりおりに様々な花を咲かせ、谷戸の散策を楽しむ人たちに、憩いを与えるようになりました。昨年秋、塀の内側を借りていた建設会社が撤退する際に、写真のように、無粋なパイプの柵を設置していきましたが、私が花を植え続けることは黙認してくれました。
hakake 3年前、この谷戸の10坪ほどの土地を、地主さんが、「花でも何でも植えなよ」と言って貸してくれました。今年もいろんな野菜や花などを植えました。さまざまな野菜が我が家の食卓をかざってくれました。でも、この夏は日照不足で、キュウリやニガウリなどは、十分に実が成らないうちに秋になってしまいました。
 この春、北村小夜さんから、なた豆の種をいただきました。種に同封されていた『北村小夜の手紙』には、「93年、伊藤ルイさんがなた豆を作っていることを松下竜一さんの草の根通信で知り、私も作らなきゃと思って種をねだり、以後毎年作っているもの」と記されていた。この豆は、小夜さんにとっても悲しい戦争の記憶と結びついているのだそうです。
 10粒送っていただいたうち、4粒が発芽し、大きな実をつけてくれました。来年の種を残して、私の孫と共にゆでて食べてみました。子どもらは、豆よりも、大きなさやをおもしろがって、遊んでいました。
 「関東大震災」で、両親を虐殺された伊藤ルイさんや、戦争に行ったまま帰らぬ人となった小夜さんの従兄の思い出と結びついているなた豆を、来年も、子どもらと共に食べてみたいと思っているのです。

双葉 つる 花
発芽 双葉 つる
さやの豆 なた豆遊び
さや なた豆遊び


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