(被告)準備書面1 |
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平成16年8月2日
1 控訴人は,先ず,原裁判所が複数回の和解期日を設けたことに言及した上で,「このような経緯を踏まえての判決であっただけに,「原告の請求を棄却する」との結論は控訴人にとって予想外であった。そして,単に主観的に予想外であるにとどまらず,審理の流れに沿わない結論である」として原判決を非難する(控訴理由書4ページ)。
控訴人が原審においていかなる判決内容を予想していたかは関知するところではないが,原審における和解は,本件免職当時に控訴人が勤務条件に関する規程3条3項2号の要件すなわち「心身の故障のため,職務の遂行に支障があり,又はこれに堪えない場合」に該当する状況であったかどうかという争点を捨象した上で,現時点(すなわち原審において審理がなされていた当時)における控訴人の身体障害の状況がいかなるものであるかに着目し,控訴人が職場復帰できるか否かを当事者双方及び原裁判所がそれぞれの立場で検討したものである。
したがって,たとえ和解の席上における様々な和解案の検討の過程で,原裁判所が控訴人の職場復帰の可否に言及したことがあったとしても,そのことと本件請求の当否とは全く関係ない。
原裁判所は,和解不成立後に本件争点の審理に戻り,その結果,本件免職の適法性を是認して控訴人の請求を棄却したのであり,原審における「審理の流れに沿わない」ものであるなどとは到底言えない。
控訴人の上記主張は,独自の思い込みを前提として,その思い込みと相反する判断を示した原判決を論難しているにすぎない。
2 次に控訴人は,控訴理由書の第2項において「障害者の解雇と障害者の人権」という項日を設けて縷縷述べている。
控訴人は「障害者の働く権利を侵害する解雇は,障害者に対する差別であり,憲法14条1項,労働基準法3条に違反する」と述べ,あたかも本件免職が,「障害者の働く権利を侵害する解雇」であるかのような主張を展開しているが,本件免職の理由は前記のとおり,控訴人が規程3条3項2号「心身の故障のため,職務の遂行に支障があり,又はこれに堪えない場合」に該当する状況であったというものであり,その成否が本件の争点なのであって,本件事案と控訴人の上記主張とは関係が無い。
3 さらに控訴人は,「障害者を解雇するに当たっては,原職復帰可能性について,身体状況の正確な把握はもとより,職場の改善,補助器具の利用などの可能性も含めて具体的に十分な調査・検討を加えた上で職務遂行の可能性を検討すべき」であるところ,「このような検討を経ない解雇は障害者差別として許され」ないと主張する(控訴理由書8ページ)。
この控訴人の主張の趣旨は,本件免職当時の控訴人の状況につき,実際には「心身の故障のため,職務の遂行に支障があり,又はこれに堪えない場合」には該当しないにもかかわらず,その身体的状況の正確な把握や,職場の改善ないし補助器具の利用などの可能性についての十分な調査・検討を被控訴人が怠った結果,その該当性についての判断を誤ったという事実認定に関する主張なのか,それとも,およそ本件免職を行うに当たってなすべき手続きを行っていないという,手続的瑕疵に関する主張なのか明らかではない。
しかしながら,原審における被控訴人(被告)最終準備書面でも述べたように,本件は,被控訴人の主たる業務として本件免職当時に現実に行われていた歯口清掃検査を前提とする限り,控訴人がこれに従事できないことが明らかである事案なのであって,免職要件の該当性について判断を誤ったという事実はない(上記最終準備書面25〜26ページ参照。)。
また,被控訴人が本件免職に至るまでの経緯も上記最終準備書面で詳細に述べたとおりであり(21〜23ページ),手続的にも何ら問題はない(控訴人は,被控訴人が杉井医師に何ら問い合せの連絡をしなかったと非灘するが,主治医に対する
問い合せが必要不可欠なものとは思われない)。
なお控訴人は,被控訴人が「現実には解雇の過程でこのような検討(被控訴代理人注・歯口清掃検査を控訴人が行えるか否かについての具体的な検討)が行われず,弁明以前の段階で車椅子の控訴人に仕事ができるはずがないという思い込みから結論が出されている」と主張するが,この点は否認する。
さらに,「職場の改善,補助器具の利用などの可能性も含めて具体的に十分な調査・検討を加えた上で職務遂行の可能性を検討すべき」であるとの控訴人の主張についても,同じく上記最終準備書面で立証責任に関して述べたことと同様に,控訴人において「職場環境の工夫」について漠然と実現不可能な内容を主張するばかりで,それ以上の主張を行おうとしないという状況において,被控訴人の方に「職場復帰のための工夫を具体的に行うべきである」という義務が生じるとは思えない。
4 控訴人は,控訴人が「業務起因性の障害である」と主張し,労働基準法19条1項本文を援用した上で,「控訴人が障害者になったのは,被控訴人の職員として過重な勤務に基づくものであり,その控訴人を解雇するのは権利の濫用である」と主張する。
しかしながら,控訴人が現在負っている障害が「業務起因性の障害である」との点,及び,「控訴人が障害者になったのは,被控訴人の職員として過重な勤務に基づくものである」との点は否認し,「その控訴人を解雇するのは権利の濫用である」との点は争う。
なお控訴人は,上記主張を正当にも排斥した原判決について,「少なくとも,業務上認定されていることについては争いはない(答弁言5頁)のであり,それを無視して業務起因性の障害であること自体を認定せず,これを解雇制限の要素として考慮することすらしないのは,極めて不公正な事実認定と言わざるを得ない」と論難するが,控訴人が現在負っている障害が「業務上認定されていること」につき「当事者間に争いが無い」などという事実はない。
控訴人が引用する被控訴人(被告)の原審における答弁書5ページは.控訴人が何らかの疾病名につき労働基準監督署長により業務上認定されたことを「認める」としたにすぎず,「その認定日及び認定された疾病名などの詳細は不知」としているのであって,控訴人が現在負っている障害が「業務上認定されていること」を認めたわけでもなければ,そのような事実も無い。
控訴人が業務上認定を受けたのは,「頚肩腕症候群」についてであり,それと本件免職時に控訴人が負っていた「頚椎症性脊髄症」の障害とは関係が無い(原審における控訴人(原告)本人尋問・第9回口頭弁論本人調書7〜22ページ参照)。
5 このように,控訴人が控訴理由として主張する内容は,いずれも独白の考え方に立脚して原判決を論難するにすぎず,控訴人の本件請求を棄却した原判決は結論において正当であるから,本件控訴は速やかに棄却されるべきである。
以上
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