答弁書
横浜地方裁判所 御中
                                            平成一二年八月三一日

第一 請求の趣旨に対する答弁
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
 なお仮執行の宣言は相当ではないが、仮に右宣言を付する場合は、担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求める。

第二 請求の原因に対する答弁
一 第一項(当事者)について
1 一は認める。
2 二のうち、以下の点は認める。
 (一)被告が、う歯予防事業や結核検診の業務を行っていること。
 (二)被告が、う歯予防事業の一環として、横浜市教育委員会から委託を受けて学校歯
   科保健事業を特別事業として運営していること。
(三) 学校歯科保健事業は、昭和三三年に横浜市学校歯科医会が横浜市内の希望校に歯科衛生士を巡回させ、児童生徒のむし歯および歯周疾患予防の指導と処置に当たらせたのが始まりで、その後巡回を希望する学校が増えたために、昭和四一年に被告に移管されて現在に至っていること。
(四) 被告に雇用される職員の勤務条件については、「横浜市学校保健会職員の任免・給与・勤務時間その他の勤務条件に関する規程」(甲第一号証。以下単に「勤務条件に関する規程」という)に定められていること。
 なお原告は、被告が「横浜市教育委員会の外郭団体」であると主張しているが「外郭団体」という語の意義が明確ではないので認否できない。
 また原告は「被告は、実質的には横浜市教育委員会の一部門であり、その運営は市教育委員会の教育行政に組み込まれている」とか、「被告の財政・組織運営が全面的に横浜市(教育委員会)によってなされている実情に留意されるべきである」とか主張しているが、事実に反する。
 他の自治体の業務に間する点については不知

二 第二項(被告が原告を解雇するに至った経緯の概略)について
1 一については、原告が昭和四二年四月一日付けで被告に雇用されたこと、被告の所在地は横浜市教育委員会内であったこと、右雇用に際して予定されていた原告の業務は歯科衛生士として横浜市内の小中学校の児童生徒を対象とする歯科巡回指導を行うことであったことは認める。
 なお、右雇用後の原告の実際の勤務状況は後述のとおりである。
2 二については、原告が主張する昭和五三年四月ころからの症状の詳細については不知(なお、後記のとおり原告は昭和五三年一一月六日から休職となっているが、その際に原告から提出された診断書の病名は「頚肩腕障害」である)。その後、私傷病職免や休職期間を経て、昭和五五年一二月六日から一時職場に復帰したこと(詳細は後述する)、労働基準監督所長により労働者災害補償保険上の業務上認定がなされたこと(なおその認定日及び認定された疾病名などの詳細は不知)は認める。
 なお、原告の主張する「リハビリ勤務」という語の趣旨が明確ではないが、右職場復帰後も、通院加療のためなどの理由で職務専念義務の免除(以下「職免」という)がなされたことがあることは認める。
3 三については不知。
4 四については、以下の点のみ認める。
(一)昭和六三年一二月二八日に、原告が横浜南共済病院に入院したこと(病名や症状は不知)
(二)平成元年一月二○日に手術を行ったこと(手術内容は不知)
5 五については、原告が歩行や日常生活が自力でできない状態になり、介助を要する状態になったことは認め、その余は不知。
6 六については、平成四年三月二五目に原告が当時の横浜市教育委員会学校保健課長と職場復帰の可否について話し合いを行ったこと(ただし、学校保健課長は被告常務理事として話し合いを行ったものである)、その際原告が介助者付きの職場復帰を求めたこと、これに対し被告が「自力で通勤、自力で勤務できること」を職場復帰の条件とし、この条件が満たされない以上原告の職場復帰を拒否したことは認める。
7 七については、平成四年四月二五日をもって原告の休職期間が満了したこと、そのため翌四月二六日以降は欠勤扱いとなり、賃金・給料は支払われていないこと、その後も原告と被告との間で、原告の職場復帰の可否に付いて複数回の話し合いが行われ、要望書や質問状が提出されたこと、被告は「自力通勤、自力勤務」の条件が満たされない以上原告の職場復帰は認めないと伝えたことは認める。
 なお、この間に原告から「移動、通勤に補助があり(車椅子その他)、左上肢に負担をかけなけれぱ勤務は可能と考える」との記載がある診断書が平成六年三月二八日付けで提出されたこと、及び、被告としては右診断書の記載内容も検討の結果、原告について前記条件が満たされていないために職場復帰を認めなかったことも認める。
8 八については、被告が原告に対し、平成七年一月一九日をもって免職する旨の通知を平成六年一二月二○日付けで行ったこと、その免職理由は勤務条件に間する規程三条三項二号に基づくものであること、及び、その後原告の就労を被告が拒否していることは認め、その余は不知。

三 第三項(本件解雇の無効)について
 全て争う。
 原告について、「心身の故障のため、職務の遂行に支障がある」(勤務条件に間する規程第三条第三項第二号)に該当すると認めた被告の判断は適正妥当であり、これを理由として原告の免職した本件解雇に原告の主張するような違法な点はない。

四 第四項
(未払い賃金の計算等)について
 原告の如き被告職員に対し、横浜市の医療技術・看護職員等給料表に準じた給料支給がされていたことは認める。

第三 被告の主張
一 被告の組織概要
1 沿革・目的
 被告は、昭和三二年に結成され、その規約(乙第一号証)は昭和三四年七月に制定された。
 被告は、その組織及び目的につき「横浜市立学校の保健に関するものをもって組織し、学校保健関係団体と協力し、学校保健の向上に資することを目的とする」と定めている(規約第二条)。

二 学校歯科衛生事業の沿革及び内容
1 学校歯科保健事業は、現在被告が行っている事業のひとつであるが、その沿革は次のとおりである。
2 昭和三三年当時、児童生徒のう触ならびに歯周疾患の著しく多い状況にかんがみ、学校歯科保健をさらに一層推進させるために、横浜市学校歯科医会が歯科衛生士を雇用し、各小中学校を巡回して歯磨き方法の指導などに従事させていた。
 こうした歯科巡回指導の事業が、昭和四一年になって被告の行う事業として引き継がれたものである。
3 被告がこの事業を引き継いだ後は、被告が雇用した歯科衛生士が、各小中学校をそれぞれ、かつては年十数回、現在は年二ないし四日程度(日数は在校児童・生徒数など学校規模によって異なる)の期間巡回して指導するようになり現在に至っている。
4 被告に雇用された歯科衛生士の数は、次のとおりである(なお人数には免職までの原告も含めている)。
昭和四二年度〜昭和四九年度 七名
昭和五○年度〜昭和五二年度 八名
昭和五三年度 八名(うち原告は一一月六日から休職)
昭和五四年度 八名(うち原告は休職)
昭和五五年度 八名(うち原告は一二月五日まで休職)
昭和五六年度 八名
昭和五七年度 七名
昭和五八年度〜昭和六三年度 八名
平成元年度 八名(うち原告は四月二六日から休職)
平成二年度〜平成六年度 八名(うち原告は休職)
平成七年度〜平成八年度 七名
平成九年度〜平成一○年度 八名
5 被告が行う歯科巡回指導は、歯口清掃検査及び歯科保健指導からなる。
 歯口清掃検査とは、各児童の歯口ないし口腔内の清掃状態を検査して、その状態を児童に知らせ、歯口清掃、咀鳴、間食などの指導に当たることである。
 歯科保健指導は、さらに集団指導と個別指導からなり、歯みがきなど基本的な生活習慣の育成を目的として児童に対して歯科保健を正しく理解させること(集団指導)、及び、特に指導を要する児童に対し個別に指導を行い歯科保健の重要性を理解させること(個別指導)である。

三 被告の勤務条件などについて
1 被告の職員について定められた勤務条件に関する規程によれば、被告の職員としては、事務職員及び歯科衛生士を採用することが予定されている(同規程二条)。
2 被告職員の任用・休職・復職・免職・退職及び懲戒処分は会長が行う(勤務条件に間する規程三条一項)。
3 被告職員が、次の各号の一に該当する場合は、その意に反してこれを免職することができる(固規程三条三項)
(一)  勤務実績がよくない場合
(二) 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又これに堪えない場合
(三) 前二号に規定する場合のほか、その職に必要な適格性を欠く場合
4 被告職員の休日及ぴ休暇は、横浜市一般職職員の休暇に関する条例の定めに準ずるとされている(勤務条件に間する規程五条)。

四 原告の採用以降の勤務状況
1 原告は、昭和四二年四月一日に、歯科衛生士として被告に採用され、歯科巡回指導業務に従事するようになった。
2 ところが、昭和四五年一月二七日以降、左記のとおり私傷病職免や休職などにより、業務に従事しない期間が多くなった。
昭和四五年一月二七日〜昭和四五年三月三一日 私傷病職免
昭和四六年九月二五日〜昭和四六年一○月一五日 私傷病職免
昭和四七年一○月一三日〜昭和四七年一二月一二日 私傷病職免
昭和五三年六月二六日〜昭和五三年七月一三日 私傷病職免
昭和五三年八月一八日〜昭和五三年一○月二八日 私傷病職免
昭和五三年一一月六日〜昭和五五年一二月五日 休職
昭和五九年四月七日〜昭和五九年五月二日 私傷病職免
昭和六二年七月一三日〜昭和六二年九月四日 欠勤
3 このうち「私傷病職免」とは、現在の「病気休暇」に該当し、一定の日数の範囲内で必要と認められる期間につき与えられる。
 したがって、「私傷病職免」の日数が規定の日数の上限まで与えられても、なお依然として心身の故障がある職員に対しては「休職」が命じられる。
 「休職」は当初の一定期間は一定の給料が支払われるが(有給休職)、この一定期間が満了すると給料は支払われなくなる(無給休職)。
 さらに、この「休職」期間も一定期間に限られており、この期限を過ぎると「休職」とは認められない。
4 その後原告は、昭和六三年一二月二三日以降、頚椎症性脊髄症の傷病名により、手続上は左記のとおり私傷病職免、年次有給休暇、有給休職、無給休職の違いはあるものの、本件免職(平成七年一月一九日)の前日に至るまで業務には従事していない。
昭和六三年一二月二三日〜同年一二月三一日 私傷病職免
昭和六四年一月一日〜同年一月三日 休日
昭和六四年一月四日〜同年一月二一日 年次休暇
平成元年一月二二日〜同年四月一二日 私傷病職免
平成元年四月一三日〜同年四月二五日 年次休暇
平成元年四月二六日〜平成二年一○月二五日 有給休職
平成二年一○月二六日〜平成四年四月二五日 無給休職
平成四年四月二六日〜平成七年一月一八日 欠勤

五 本件免職の正当性
1 原告が、歩行や日常生活が自力でできない状態になり、介助を要する状態になったことは当事者間に争いの無い事実である。
2 ところで、原告が被告職員として従事すべき業務は、既に述べてきたとおり歯科巡回指導業務であるところ、右のような状態にある原告が、この業務に耐えることができないことも、また明らかであり、当事者間に争いの無い事実である。
3 被告は、これにより、原告を勤務条件に関する規程三条三項二号に該当する者と判断して免職したものであり、それが正当であることも明らかである。

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