(原告)最終準備書面 |
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平成12年(ワ)第2100号 次回期日10月2日
原告 徳 見 康 子
被告 横浜市学校保健会 直送済
最 終 準 備 書 面
平成15年9月25日
横浜地方裁判所
第7民事部合議係 御中
原告訴訟代理人弁護士 新 美 隆
同 森 田 明
記
第1 原告に対する解雇処分の違法性
1 障害を理由とする解雇についての考え方
(1)障害者の雇用に関する法・政策
1981年の国際障害者年の「完全参加と平等」の理念は、障害者基本法の基本的理念として位置付けられ、同法3条に「すべての障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」と規定された。
1983年に採択され、日本でも1992年に批准・発効した「障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約」(ILO第159号条約)は、国際障害者年の理念を雇用の場において具体的に保障しようとするものである。この批准を受けて、障害者基本法は1993年(平成5年)の改正で障害者の雇用促進を国及び地方公共団体の責務とし、そのための施策を講ずることを義務付けている(同法15条)。
一方、障害者の雇用の促進に関する法律(甲8 464頁以下)では、「障害者がその能力に適合する職業に就くこと等を通じてその職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もって障害者の職業の安定を図る」ことを目的に掲げ(1条)、基本理念として「障害者である労働者は、経済社会を構成する労働者の一員として、職業生活においてその能力を発揮する機会を与えられる」とし(2条の2)、事業主の責務として「障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するのであって、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行なうことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない」と定める(2条の4)。また、国及び地方公共団体に対しては「障害者の雇用について事業主その他国民一般の理解を高めるとともに、事業主、障害者その他の関係者に対する援助の措置及び障害者の特性に配慮した職業リハビリテーションの措置を講ずる等障害者の雇用の促進及びその職業の安定を図るために必要な施策を総合的かつ効果的に推進するように努めなければならない」としている(2条の5)。障害者の雇用の促進は、国及び地方公共団体の法的義務なのである。
なお、障害者の雇用の促進に関する法律は逐次改正がされているが、これらの規定はいずれも昭和62年の改正までに設けられている。
また、平成10年4月に労働省が策定した「障害者雇用対策基本方針」(甲37)では、「ノーマライゼーションの理念の実現のためには、障害者の社会的な自立に向けた基盤づくりとして、職業を通じての社会参加を進めていくことが基本となる。このため、障害者が・・・可能な限り一般雇用に就くことができるようにすることが重要」として、事業主が行なうべき雇用管理の指針を示している(甲37 1、2、10ページ以下)。そのなかで、肢体不自由者については、「通勤や職場内における移動ができるだけ容易になるよう配慮するとともに、職務内容、勤務条件等が過重なものとならないよう留意する。また、障害による影響を補完する設備等の整備を図る」とし、中途障害者については、「円滑な職場復帰を図るため、必要に応じて医療・福祉機関とも連携しつつ雇用継続のための職業リハビリテーションの実施、援助者の配置などの条件整備を計画的に進める」としている(甲37 12頁)。
これらは障害者の雇用を促進する上では当然のことであって、それ以前にもなすべきであったことを具体的に確認したものである。
なお、事業主に対してはさまざまな援助制度が整備されてきており、中途障害者に対しても雇用の継続を図るための助成制度がある(甲9「各種助成金のご案内」(平成12年度版)25頁)、甲26「各種助成金のご案内」(平成13年度版)26頁)、甲27「障害者雇用継続助成金のごあんない」)。
甲42「除外率設定業種における障害者の雇用促進」(厚生労働省、日本障害者雇用促進協会)では、障害者の就労が困難とされてきた職種についても、積極的に雇用を促進すべきであるとして、医師、大学教員等として障害者が活躍している例を多数紹介している。
なお、横浜市も「横浜市職員への身体障害者雇用についてー基本方針ー」(甲50)を策定している。これは、横浜市職員の採用にあたり、「働く意志と能力のある身体障害者に就労の戸を開」こうとするものであり、自力通勤、自力勤務を要件としつつも、「適職の拡大を図るため、各職場での理解と協力のもとに、職務内容の等の検討を行い、障害者個々の特性にあった職務・職場の確保に努める。」「障害を有する職員の勤務しやすい職場環境を確保するため、必要に応じ施設・設備等の改善に努める。」等の方針が示され、さらには「この基本方針に準じて、本市外郭団体等関係機関についても身体障害者雇用促進に協力を要請する。」としている。
(2)判例の考え方
すでに札幌地裁昭和61年5月23日判決(判時1200・51)において、ペースメーカーを装着した心臓疾患を有するタクシー運転手に対する解雇を無効としたが、その理由として「被告は原告が完全房室ブロックにより心臓を植え込んだこと及び右症状により障害度1級の身体障害者としての認定を受けたことから、それ以上の調査、検討を何らすることなく・・・解雇した」ことをもって解雇権の濫用であるとしている。
札幌地裁小樽支部平成10年3月24日判決(労判732・26)は、右半身不随となった保健体育教諭の解雇を無効としており、障害を負ったことだけで安易に解雇することは許されないとしている。なお、この判決では、障害を持つ者が教育現場で働くことの教育的意義について言及している。
(3)本件解雇について検討すべきこと
以上のとおり、障害者の雇用及び雇用継続のために事業主が労働環境を整備すべきことが求められているのであり、解雇の正当性もこれを前提に判断されるべきである。
即ち、障害者を解雇するに当たっては、現職復帰可能性について、身体状況の正確な把握はもとより、職場の改善、補助器具の利用等の可能性も含めて具体的に十分な調査・検討を加えた上で職務遂行の可能性を検討すべきである。このような検討を経ない解雇は障害者差別として許されない者であり、その意味で一連の障害者政策は解雇権を制限するものと解されなければならない。そして、かかる規範は、本件解雇時である平成7年(1995年)1月19日の時点で既に確立していた。
被告は、原告を解雇した根拠として、被告の勤務条件に関する規程(甲1)3条3項2号の「心身の故障のため、勤務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合」にあたるといい、具体的には、「自力通勤、自力勤務」ができないからだという。
しかし、この規程に該当するかの判断にあたっては、原告の身体状況を正確に把握することはもとより、職場の改善、補助器具の利用等の可能性も含めて具体的に十分な調査・検討を加えた上で職務遂行の可能性を判断しなければならない。
また、本件では判断要素として次の点も考慮されるべきである。教育現場で障害を持つ者が働くことには教育的効果という面からも意義がある。被告は実質的には横浜市教育委員会と一体となっている団体であり、国や横浜市の障害者雇用促進の方針を率先して果たすべき立場にある。また、原告はもともと職業病に起因する中途障害者である。
以下に詳述するように、被告は、「車椅子利用即就業困難」という固定観念から安易に解雇を決定したものであり、そもそも就業可能性についてかかる検討を怠って解雇を断行しており、そのこと自体が解雇権の濫用であるとともに、その結果、就労が実際には可能である原告を就労不能と断ずるという違法な解雇に至ったものである。
2 就労可能性につき十分な検討をせずに解雇した違法性
(1)解雇に至る経過
原告の解雇に至る検討経過を長島清証人の証言及び陳述書(乙39)に従って整理するとつぎのとおりである。
・平成5年12月27日 臨時部会長会
原告に診断書提出を求めることに
・平成6年2月23日 原告から診断書提出(内科的診断)
・同年3月17日 臨時役員会
再度原告に診断書提出を求めることに
・同年3月31日 原告から診断書提出(乙33、整形外科杉井医師によ るもの。)、「左上・下肢の麻痺による移動・通勤に補助があり(車 椅子その他)、左上肢に負担をかけなければ勤務は可能と考える。」 との記載あり。
・同年4月6日 臨時役員会
弁明の機会を設けることに
・同年4月25日 「弁明の機会」
・同年5月30日 再度の「弁明の機会」
・同年8月4日 臨時部会長会 免職を決定
(2)実質的な検討の欠如
以上の経過の中で、被告がどのような検討をしたのかについての具体的内容は、主張や証人尋問を通じても一向に明らかにされていない(たとえば長島7回39、40頁)。
それでも判明したことは、まず、被告のいう現行の職務内容を全く変えない前提での検討であったことである。被告が本件訴訟の中でも、原告の障害に合わせた勤務条件の整備という観点からの主張をまったくしていないことからも、解雇当時に仕事のすすめ方、職場環境の見直しを含む検討がされたとは考えられない。
医学的判断としては、杉井医師の診断書(乙33)を「徳見さんの左上肢や左下肢は麻痺により自力で動かすことができないことがわかりました。またそのような麻痺のために、通勤に関しても勤務に関しても、介助者なしではできないこともわかりました。」(乙39 5頁、長島6回11頁)と一方的に断定して、そこからただちに「自力通勤、自力勤務」が不可能であると判断したことがうかがわれる。
しかし、乙33の診断書は、「勤務は可能である。」という結論を示しているものであり、これをもって就労不能と判断するのは無謀である。記載と逆の判断をするのであれば、少なくとも、杉井医師に記載の趣旨の確認をすることが必要であろうが、診断書提出後杉井医師には何ら問い合わせの連絡もしていない(原告8回24頁、長島7回21頁)。当然ながら杉井医師は、診断書と逆の結論を出されたことに驚き、怒っている(原告8回24頁)。
「弁明の機会」についても、実際には既に解雇という結論を出した上での儀式的なもの(あるいは解雇を説得する場)に過ぎなかった。原告が職場環境の改善について提案しようとすると、「空想の話を聞いてもしょうがない」として発言を制止されてしまい、本来この場で最も検討すべきであった、現実的な職場環境整備についての話合いはできなかったのである(原告8回27、28頁。なお、甲56の記事でも被告側の者の「アメリカの方からイスを買うなんていっているがそんな架空のことを言ってもしょうがない」との発言が紹介されており、被告において職場環境の改善を検討する意思がなかったことは明らかである)。
解雇後、原告が、原告を支援する団体、市会議員らが説明を求めても、「相当の時間をかけて結論を出した」という回答を繰り返すばかりで、検討した内容については何ら説明されなかった(原告8回33頁、甲64から83)。そして、本件訴訟においても、具体的な検討内容は明らかにされないままであり、実質的な検討がされなかったことは明らかである。
(3)「左手は全く動かなかった」・・・根拠のない誤った認識
さらに、被告は、長島証人の陳述書及び証言において、突如、「左手がまったくといっていいほど上がらない状態でした」(乙39 6頁)、「原告の左手は全く動かない状態でした。」(長島6回3頁)と言いはじめた。そして、解雇を決めた役員もそのような認識であったという(長島7回37頁)。
しかし、原告の左手が全く動かない状態であったことはなく、上記供述は全く事実に反する(原告8回33から36頁。甲60、62という客観的証拠からも明らか)、解雇時のやり取りや解雇後の交渉でも、本件訴訟においても全く言われなかったことであり、どうしてこのような事実が唐突に創作されるのか理解に苦しむ。
他に解雇を正当化する身体状況がなかったために思いついたのであろうか。
(ちなみに長島証言が全体として、原告側に対する敵意をむき出しにしたもので、原告側の質問に誠実に答えない等およそ信用性に乏しいことは、長島7回1から5頁より明らかである。)
被告の主張を前提とするなら、被告は「左手が全く動かない」という誤った認識のもとで解雇を決定したものであり、このことだけからしても解雇は無効といえる。そしてこれも、検討の不十分さ、原告の話を誠実に聞かずに一方的な決定をしたのもたらした誤りである。
(4)本件において検討されるべきであった事項
本件においては、解雇の判断に当たっては、少なくとも次のような点が具体的に検討されるべきであった。
ア 身体の状況の確認
身体の状況については、まず、主治医の意見を聞くべきことは当然である。被告は整形外科の主治医であった杉井医師に「勤務が可能かどうか」についての診断書の作成を求め(乙32)、これに対して「勤務は可能である」との診断書が提出された(乙33)にもかかわらず、この結論を無視して恣意的な解釈により、勤務不能と解釈したのである。しかも、杉井医師に何も問い合わせ等をしていない(原告8回24頁、長島7回21頁)。これは明白な落ち度と言うほかはない。
このように身体の状況についての把握の努力自体がされていないことは明らかである。むしろ意図的に確認をしないままに解雇の結論をだしたことすら疑われる。
イ 通勤の可能性
被告は、車椅子を用いることから、ただちに自力通勤は不可能と考えるようであるが、このような発想は誤りであり、さまざまな手段による通勤の可能性を検討すべきである。公共交通機関にしろ、学校にしろ、車椅子利用者のための設備の普及が進められている。車椅子利用者の就労可能性をはじめから否定してしまうなら、何のために多額の費用をかけてエレベーターの設置を進めているのか。
後述するように、原告の場合について具体的に検討したところによっても、通勤は十分可能なのである。
ウ 就労環境の整備
被告は、現行の「歯科巡回指導」のやり方を画一的にとらえ、「そのとおりにできなければ」解雇できるのだとして、就労環境の整備についての検討をまったく怠っている。
しかし、そもそも現場でのやり方は多様である(歯科衛生士が座って行なうこともあるなど)し、歯科衛生士の状況に応じて工夫がされてよいものである(後述)。また、補助具の利用についての検討も必要であるが、これも怠っている。
被告はそもそも車椅子で学校の教室に立ち入ること自体を容認できないと考えているようであるが、これまでに述べたことからすれば、このような考え方が誤りであることは多言を要しない。
エ 負担軽減方策の検討
環境整備にかかる負担については、さまざまな公的補助制度がある。被告が形式上は民間事業者であることから、これらの制度の利用が可能である。たとえば、原告については、中途障害者作業施設設置等助成金の対象になる。これは、中途障害者の作業を容易にするために必要な施設または設備の設置または整備を行なう事業者に、最大中途障害者一人当り450万円を支給するというものである(甲9 25頁)。
もっとも、被告が実質的には横浜市と一体となっており、財政面でも全面的に横浜市に依存していることからすれば、市と協議の上被告が決めさえすれば、必要な費用について市から支出を受けることができよう。
(5)結論
障害を理由とする解雇に当たっては、こうした調査・検討が必要であるにもかかわらず、被告はそれを全く行なうことなく、原告を解雇したものであり、そのこと自体が解雇権の濫用でありで違法な解雇というべきである。
3 就労が可能である原告を解雇した違法性
原告は、以下に述べるように、環境整備を図ることで十分に現職復帰が可能であった。これらは解雇にあたり十分な調査、検討をしていれば当然わかったことである。
(1)身体の状況
主治医である杉井医師の診断書によれば「左上・下肢の麻痺による移動・通勤に補助があり(車椅子その他)、左上肢に負担をかけなければ勤務は可能と考える。」とされている(乙33)。
杉井医師によれば、ここにいう麻痺とは「完全麻痺」ではない麻痺であり、全く動かない状態には至っていないことを意味し、それゆえに勤務は可能であるとの結論を出し、その旨記載した(原告8回23から24頁)。その診断書を根拠に、杉井医師に内容を確認することもなく、被告が「就労不能」と判断するのは論外である。
「左手が全く動かない」事実がなかったことは前述のとおりである。
要するに、乙33の診断書のとおり、一定の環境整備がされれば復職は可能な状態だったのである。
(2)通勤の可能性
甲29のビデオテープでは、原告は電動車椅子、地下鉄による通勤が可能であることを明らかにしている。すでに横浜市営地下鉄の駅の多くには、身障者用施設が設けられており(甲23)、これは増えこそすれ減ることはない。電動車椅子と地下鉄により通勤することを前提として可能と思われる範囲を図示したのが甲31であるが、この時点で市内の過半数の小学校を訪問することが可能である(原告8回2頁)。原告の最寄り駅はあざみ野であり、市営地下鉄の始発駅であることからも地下鉄を利用しやすい状況にある。学校のほか、被告の事務所のある関内にも直通で通勤することができる。
介助者がついて自動車で通勤することが許されるなら行動範囲はほとんど制限がないほど広くなる。現在では車椅子利用者が容易に昇降できる自動車が販売されている。甲25、甲49はその一例である。
さらに通勤と就労環境の両方にかかわる学校の設備について言えば、甲84ないし86にあるように、肢体不自由児のための施設改善として、小中学校の階段手摺、トイレ改善、段差解消等が進められている。「車椅子の障害者は学校に来てはならない」というが如き被告の考え方は全く現実離れしたものである。
また、横浜市は「福祉のまちづくり条例」に基づいて市立の施設にエレベーターや車椅子トイレなどの設備の普及を進めている(甲87)。これによって、車椅子利用者の行動範囲は拡大している。
学校は、学校行事の際、あるいは選挙の投票所になるような場合は地域の高齢者や障害者が出入りすることもあり、その際車椅子利用者であるから出入りを断ることなどあってはならないのである。
(3)就労環境の整備
a「歯科巡回指導」のやり方の工夫
原告が行なっていた「歯科巡回指導」は、おもに「歯口清掃検査業務」と「歯科保健指導」からなる。
b「歯口清掃検査業務」は、何も立ってやらなければならないものではない。実際、原告は職業病としての頸肩腕症候群になった後には児童を座らせ、自分も座って実施していたことがある。検査をより迅速に進めようとするなら、児童の座る椅子を二つ用意して、交互に診てゆくやり方もある。原告の現在の症状でも、こうしたやり方なら十分可能である(甲51(甲18として提出したものを番号訂正) ビデオテープ)。
また、より適切なやり方は、児童を寝かせて、上から覗くようにして検査するやり方である。
被告が「現状」として主張する、「歯科衛生士も児童も立って、歯科衛生士が中腰になる等しておこなう検査方法」は、実際には普遍的なものではない。双方が座る等して検査をすることはもとより可能であるし、実際に行われている(甲18の新聞記事、学校等における歯科検診の写真である甲39ないし40)。
また、座面の上下動が可能ないわゆる3次元車椅子を用いれば立って行なうと同様のやり方が可能であるが、3次元車椅子ないしこれに代わる上下動が可能な座椅子等は、様々なタイプのものが価格も安価なものも含め様々に存在する(甲12ないし17、24、49)。貸出しも可能である(甲28)。
c「歯科保健指導」には「個別指導」と「集団指導」がある。
「個別指導」は、少人数対象なので工夫の仕方はいくらでもある。
「集団指導」では、学級単位でクラス全員の児童を前に歯の磨き方等を指導する。そのため、立ち上がれないこと、歯やブラシの模型を挙上できないことが問題とされるかも知れないが、この点も工夫により解決することは十分可能である。例えば、座ったままで体を上へ持ち上げることのできる椅子ないし車椅子があり、こうした器具を使えば、腕を上げなくとも、児童に模型を示すことは可能である。歯磨きの模範指導も常に歯科衛生士がするのではなく、説明を与えながら児童にさせることもありえよう。また、オーバーヘッドプロジェクターやビデオ上映等による模範指導もできるし、そのための資料の作成も可能である。
被告は、指導の際、歯科衛生士が机の間を移動して指導するので車椅子では不可能というが、前述のように学校に車椅子利用者がいることを前提とした環境整備が進められつつあるし、歯科衛生士は常に机の間を移動して指導しなければならないものではない。歯科衛生士が車椅子に乗っているなら、あらかじめ机を下げて移動しやすいようにする、あるいは体育館、プレイルーム等の邪魔になる物がない場所でやればよいのである(現に原告が勤務中、学校側がそのような場所を用意していたことがある。そのような対応は常識的に考えても十分可能なことである。)
被告の発想は、障害者と現場でそれにかかわる者(学校関係者、児童)の柔軟な関わり合い全く無視した硬直化したものと言わざるを得ない。
(4)結論
以上のように、原告は解雇当時職場復帰は十分可能であったし、現在も可能である。この点からしても、被告による本件解雇は障害者に対するいわれなき差別であり、解雇権の濫用である。
第2 損害
解雇を無効とすることにより原告に支払われるべき給料等の額は訴状記載の金額である。その計算根拠は乙88のとおりである。
以上
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