96.12.24
伊藤利之 証人調書 1 Q(質問):被告代理人(栗田) Q(栗田).先生のご専門は何になりますか。 A.リハビリテーション医学でございます。 Q.先生は、徳見さんが平成2年9月からリハセンターの診療所に外来で通院している間に、厚生施設入所の判定のため、徳見さんの診察をされたことがありますか。 A.あります。 Q.(甲第16号証の58を示す)2枚目の下のほうに1990年10月30日、伊藤利之と書かれていますけれども、この日に診察されたということでよろしいでしょうか。 A.はい。 Q.(同号証の59を示す)これは、そのときの、やはり引き続きの診察内容を先生がお書きになったものですね。 A.はい。 Q.(乙第6号証を示す)11ページを見てください。ここにリハ医師カルテという項目がございますけれども、平成2年10月30日欄に「伊藤利之[No.58]」とありまして、そのまたずっと下に「伊藤利之[No.59]」とあるんですけれども、これは、先程の甲第16号証の58、同号証の59を書き写して、翻訳をつけたということでよろしいでしょうか。 A.はい、そうです。 Q.内容は同じですか。 A.はい。 Q.乙第6号証のほうでお聞きします。10月30日欄の「[No.58]」によると、昭和55年から、ずっと平成元年10月までの記述があって、その右にいろいろ内容が書かれていますが、これは何を示しているものなんでしょうか。 A.これは、患者さんでありました徳見さんが言われたことを記述したものです。所見としてですね。要するに、現病歴ですね、病歴です。 Q.この欄の平成元年10月の部分に「左下肢の痙性が亢進している」とありますが、下肢というのはどの部分を指すんでしょうか。 A.広義には、股関節から足の先までです。ここではそういう意味で使っています。 Q.そこに書かれている「左下肢の痙性が亢進している」というのは、どういう意味なんでしょうか。 A.筋肉の緊張が高まっているという意味です。それは、ご本人がおっしゃったのを記載しているんです。 Q.ご本人が述べられた症状を記載したんですね。 A.はい。 Q.その下に「足部―内反尖足が著明」とありますが、これはどういう意味でしょうか。 A.これもご本人が言われたことを記載したものですが、足部がこう下に伸びてですね、要するに上がらなくなっていると、自分の力ではなかなか上げにくくて、内側に引っ繰り返りやすいということを、本人が述べていることを記載したものです。 Q.足部というと、どこを指すんでしょうか。 A.足首から下のところです。 Q.足首から下のところが……。 A.下にこう伸びてですね、要するに、背屈しにくくなって、内側に引っ繰り返りやすくなっているということを述べられたものを記載したものです。 Q.その下の「伊藤利之[No.59]」のところに「C7-8」とありまして、翻訳したのが「左筋委縮」とありますが、これはどういう意味でしょうか。 A.ここからは私が徳見さんを診た所見です。それで、脊髄、これは首の部分を頸椎といいます。胸の部分を胸椎といいますが、首の部分は1番から8番まで医学的には分けておりまして、そこから末梢神経が出てくるわけです。その7番目と8番目の神経が支配している筋肉が萎縮しているということの所見です。具体的に言うと、彼女の場合は、左の手内筋が萎縮しておりまして、萎縮というのは、痩せておりまして、握力が少し弱くなっているということを、その下のweakness(ウィークネス)と書いてあるのと合わせると、そういう所見です。 Q.その下に「左下肢」とありますが、これは徳見さんの左下肢の状態の所見が書かれているということですか。 A.はい。 Q.その一等最初に「(大腿四頭筋)F」とありますが、これはどういう意味でしょうか。 A.大腿四頭筋というのは、腿の前面にある筋肉で、膝を伸ばすことをする筋肉なんですが、その力が徒手筋力テストでいうフェア、Fということです。 Q.フェアというのは、どういう状態を指すんでしょうか。 A.抗重力位で、重力に抗して足を伸ばすことができるということで、膝を伸ばすことができるという意味で、まぁ、この地球上でですね、少なくとも重りなどをつけなければ自由に動かすことができるという意味です。 Q.このFの場合だと、装具をつけたら歩けるような状態なんでしょうか。 A.当然そうなると思います。 Q.装具をつけないと難しいというくらいの筋力でしょうか。 A.そうですね、Fというのは、その境目でして、装具をつけなくても、杖を持てば大丈夫なくらいです。 Q.その下の「前脛骨筋」の「痙縮状態」というのは、どういう状態なんですか。 A.前脛骨筋というのは、膝の下の下腿ですね、膝から下の前のほうの筋肉で、足首を背屈する、上に上げるための筋肉です。その筋の緊張があるということを示したものです。 Q.その下に「腓骨筋」と書いてありますけれども……。 A.この「Gastroc.」というのは、腓骨筋ではなくて下腿三頭筋です。で、下腿三頭筋のやはり筋の緊張があるということです。下腿三頭筋というのは、要するにふくらはぎの筋肉です。 Q.それが「P〜F」とありますが、これはどういう状態を指すんでしょうか。 A.この筋肉の徒手筋力テストでは、例えば背伸びができるとF以上ということになるんですが、背伸びができないとP以下ということになります。足首を下に下げる筋肉なものですから、背伸びをするときに使う筋肉です。その筋肉が、自由に動かして、自分の体を持ち上げることができればF以上ということになるんですけれども、その微妙なところということです。 Q.先程から抗重力位という言葉が出てくるんですけれども、抗重力位というのはどういうことでしょうか。 A.地球上にある重力に逆らって、自分の姿勢を保持する姿勢ですね。すなわち、例えば立っている姿勢です。立位の姿勢などは抗重力位です。それで、腰の周囲の筋肉や膝の周囲の筋肉が、それに逆らって、十分な力があれば、私たちは立っていることができるわけですけれども、その力が十分にないと立っていることができなくなります。 Q.その下ですけれども、「腓骨筋」が「Z〜T」とありますが、これはどの程度の状態を指すんでしょうか。 A.腓骨筋は足首を上に上げる筋肉なんですが、これがZ〜Tというのは、この関節を自由に動かすことはできない、けれども筋肉の収縮があると。筋肉に検者の手を触れまして、その収縮を感じとれればTですね。ただ、足首を動かすことはできないんですね。 Q.筋自体は動くということなんですか。 A.そうですね。 Q.その下に「変化なし」とありますけれども、これはどういうことですか。 A.これは、徳見さん自身が特に変わっていないということを表しております。要するに、筋肉の力にそんなに変化はないということでございます。 Q.左下肢はそのような記載があるんですけれども、右下肢についての記載はありますか。 A.ございません。 Q.右下肢についての記載がないのは、どういうことですか。 A.日常生活上で問題になるようなことがなかったものですから、そのことの支障があるような所見がなかったものですから書かなかったのです。 Q.その横の「Reflex」というものなんですが、これはどういう意味でしょうか。 A.これは、腱反射を意味します。よく膝の腱のところを叩くとポンとなります。こういう反射です。普通は、出るのが正常であります。ただ、出過ぎるのは異常なんですけれども。それを意味します。 Q.腱反射で、「両側、上腕二頭筋腱反射、正常域」とありまして、その下に「両側、上腕三頭筋腱反射、正常域」とありますが、これはどういう意味でしょうか。 A.これは、両側とも検査しています。上腕二頭筋というのは、肘を曲げる筋肉です。肘から上の、肩と肘の間の、力こぶが入るところの筋肉ですね。そこの筋肉の腱が肘のところにあるんですが、そこを叩くと肘が曲がるわけです。これが正常な範囲で反応したということです。それから、上腕三頭筋の腱反射というのは、今度は肘を伸ばすほうの、裏側の筋肉です。この腱を叩くと肘が伸びるわけですが、これも正常な範囲で反応したということです。 Q.その下に「ホフマン陰性」とありますが、これはどういう状態なんでしょうか。 A.ホフマンという検査は、中指の先を検者がチョンと撥ねるんです。そうしますと、親指がキュッと屈曲するんですね。こういう反射は一般には出ない反射です。ですから、プラスだけで異常なわけですが、それがなかったということです。 Q.そもそも、「ホフマン陰性」と書いてある、これは何を……。 A.中枢神経系、つまり脳や脊髄の運動領系の神経に障害があった場合に出る、そういう所見の一つです。 Q.そうすると、中枢神経の異常を調べるテストで、陰性ということで異常がなかったということでよろしいですか。 A.はい。 Q.その下にある「膝蓋腱反射、亢進」、それから「アキレス腱反射、亢進」とありますが、これはどういうことですか。 A.これも、先程お話しましたように、膝の下の腱を叩いたときの反射が普通以上に緊張していたと。それから、アキレス腱の腱を叩いたときの反射が、やはり普通以上に亢進していたと。これは左側の足に限っています。 Q(裁判長).その反射のテストは、いずれも左側、左上肢、左下肢についておこなっているということですか。 A.上肢は両側です。 Q(栗田).今の膝蓋腱反射とアキレス腱反射は左ということですね。 A.そうです。 Q.(甲第16号証の31を示す)これは徳見さんが平成3年1月7日にリハビリテーションセンターに入所してすぐに高塚医師がおこなった診察のカルテのようなんですけれども、これの2ページに人の絵が描かれているんですけれども、この人の絵にプラスとか、プラスにもう一つ記号がついておるものがございますね。このプラスというのは、これはどういう状態を表しているんですか。 A.これは全部腱反射を表しておりまして、プラスというのは、先程言いましたように、出るのが当たり前ですから、ワンプラス、一つのプラスは正常という意味です。二つのプラスはやや亢進しているという意味です。もっと亢進していれば三つですが、やや亢進しているという意味です。 Q.これについて、先程の先生がおこなわれた所見とどこか異なるところはございますか。 A.あります。ホフマン反射が、ここでは陽性になっております。 Q.これで言うと、ホフマン反射は一番上ですね。これが陽性になっていると……。 A.はい。 Q.高塚先生と伊藤先生で所見の違いがあるようなんですけれども、そのような所見の違いはあり得ることなんでしょうか。 A.あり得ます。ホフマンというのは非常に微妙な反射でして、その下に書いてあるトレムナー反射というのはこうやって指を強く弾くんです。そうすると親指が屈曲すると……。私が診たときはトレムナーはやはりプラスでした。ですから、彼女の場合にはやや亢進をしていたというふうにみてよろしいわけで、軽く弾いたときにマイナスと私は出たのですが、高塚医師はプラスと出たというふうに診ています。したがって、検者間に差があるわけで、これが検者間に差がなくて、すべていつもプラスに出ていれば、これは陽性所見として信用がおけるのですが、検者間で差が出てくるような場合にはさほどに重視してはいけないという反射です。非常に微妙な反射です。 Q.ここのカルテの中段に「sensory」と書いてあるのは、何と呼ぶんですか。 A.センソリーです。 Q.これの高塚医師の所見はどういうことですか。 A.これは感覚のテストでして、例えば、針のようなものを用いて、皮膚の上から軽くたたいて、痛みや、あるいは触って、触った感じを聞く、そういうテストです。ご本人が鈍いと言えば、鈍いということになりますので、ご本人が鈍いと言われた領域、要するに、頸椎の5番と6番、それから胸椎の1番の神経が支配している領域が鈍いというふうにご本人が答えたことを記載したものだと……。 Q.その下に「MMT」とありますが、これは徒手筋力テストと呼ばれているものでしょうか。 A.はい。 Q.これに検査結果が書かれていますが、これは先程の先生の所見と異なるところがありますか。 A.若干こざいます。下肢の膝を伸ばす筋肉が高塚医師の場合にはPになっています。 Q.どちらの下肢でしょう。 A.左下肢です。私の場合にはフェアというふうに言いました。で、これは、要するに抗重力位では自由に膝を伸ばせないという所見です。十分に膝を伸ばせないという所見です。私の場合には伸ばせるという所見であります。 Q.これも所見に違いが出ているんですけれども、このような違いが出ることがあるんでしょうか。 A.あります。徒手筋力テストはあくまでもご自分で動かしてもらうわけですから、患者さんの協力が得られなければ、当然動かさないわけで、そうなれば、こういうふうになることがあります。ただ、私の所見で膝が伸びたわけです。そうすると、少なくともその筋力はあったというふうにみるべきだというふうに考えます。 Q.そうすると、患者さんのご協力がないとできない一つのテストだけれども、少なくとも伊藤先生が所見でおこなわれたときにはFという力があったんだから、少なくともそれ以上はあったといってよろしいわけでしょうか。 A.はい。 Q.そこの下に「ROM」と書いてありますが、これはどういう意味なんでしょうか。 A.これは、レンジオブモーションという意味、関節の可動域を意味します。関節の動く範囲です。 Q.その中身なんですけれども、これはどういうことが記載されているんでしょうか。 A.これは、左の足首の動きが悪いということで、足首が上に上がるのが0度までしか上がらないと。ちょうど形でいうと90度、私たちの足はもっとそれより更に足首を背屈することができるんですが、ここまでしかできませんと、そういう意味です。ここまでというのは、90度、正常に地に足がついている状態です。 Q.高塚医師の所見と伊藤先生の所見は若干の違いがあるんですけれども、先生の所見では、徳見さんの四肢の状態、まず下肢についてはどのようなものだったと、まとめてはどういうことになるんでしょうか。 A.まとめて言いますと、左の下肢は、足首の周囲に筋の緊張がありまして、やや内側に入りやすいような状況であることと、それから左の膝の付近ですね、膝を伸展する、伸ばす筋肉の力が若干弱いと……。右側のほうは、日常生活上困らない、支持性が十分ある、体を支える力があるということです。 Q.上肢についてはどうだったんでしょうか。 A.上肢については、左の手の筋肉がやや力がなくて、握力も低くて、しかし、日常生活に困るほどではないという筋肉の力です。右側のほうは十分使える、実用性のある、力があると。もちろん左側も日常性はありますが、手の握力がやや弱くなると、そういう所見です。 Q.歩行能力という面では、徳見さんの能力はどの程度だったと言ってよろしいでしょうか。 A.そのときの所見では、少なくとも左下肢に長い支柱のついた装具をつけておりました。で、これをつければ、膝にロックができるようになっておるものですから、膝が曲がるのを防ぐようになっておりますので、それをつけて、一本杖で歩ける、杖を一本持って歩ける、そんな状態でしたが、身体症状だけで言えば、そんな長い装具を使わなくても、膝から下の装具でも一本つければ、何とか歩けるかなと、そういう状況だと判断しました。 Q.この前の宮崎理学療法士の証言では、長下肢装具と呼ばれているものですね。 A.(うなづく) Q.(第15回口頭弁論証人宮崎貴朗の速記録を示す)19ページを見てください。この辺りを見ると、右足について特に問題ありませんでしたと、それから支持性があると、こういうふうに言っているんですが、右足については、宮崎理学療法士が述べていることは、伊藤先生の所見と同じというふうに伺ってよろしいでしょうか。 A.はい。 Q.同じく速記録の23ページを見てください。最初のほうなんですけれども、「左下肢についても、股関節の支持性は十分でしたから、膝関節と足関節は先程長下肢装具の説明でやりましたように、崩れないように固定されていますから、割りと大丈夫な、支持性は比較的良好になるはずです」と言っているんですけれども、これも先生の所見からすれば同じということになるんでしょうか。 A.長下肢装具をつけて、膝の関節の部分をロックしますと、ちょうど左足をギブスで巻いたような形になりますので、十分支持性が得られるということです。 Q.(甲第16号証の37を示す)これは診療録ということになるんですかね。これの二枚目の平成3年3月22日の欄に「南共済Hp、大成先生へTELで確認」とありまして、「骨傷はない」「受傷前後にXp上変化はない」とありますが、これはどういうことが書かれているんでしょうか。 A.いわゆる転倒事件の結果撮った恐らくレントゲン写真と、それ以前のものとに特別な差がないということで、また、骨にも新たな損傷はないということだと思います。 Q.Xpというのは、どういうことなんですか。 A.レントゲン撮影のフィルムです。 Q.(甲第16号証の43を示す)これは、本件転倒事件後に先生が徳見さんを診察されたときのカルテということでよろしいでしょうか。 A.(うなづく) Q.これの三枚目の最初なんですけれども、Present State、転倒事件後の先生の所見だと思うんですけれども、これは、先程の入所判定の伊藤先生の所見と、入所すぐの高塚医師の診察の結果と、何か違いがございますか。 A.新しく出たものとしては、このトレモールプラスというのが加わりました。一番上から三行目に書いてあるものです。これは手の震えを意味します。我々は振戦と言っておりますが、手を真っすぐ伸ばしますと、こうやって手が震えるんですね。 Q.それがプラスというのは、どういうことですか。 A.普通は震えませんので、これが震えているということです。 Q.その下に「病的か否かは?」と書いてありますが、これはどういうことなんですか。 A.病的な振戦ですと、非常にリズミカルに、非常に細かく動くのが一般的でして、自分で動かせばいくらでも動くものですから。それが、随意的に動かしているのか、それとも病的なものかが判断つかないというんでしょうか、病的なものと必ずしも言い難いという意味で、クエッションをつけたんです。 Q.この部分の下のほうに「全体として精神的不安定さは感じられるが、身体機能的には、厚生施設利用時判定の所見と変らず」とありますが、これがそのときの先生の所見というか、結論ということでしょうか。 A.はい、そうです。 Q.同じく甲第16号証の43の今のカルテですけれども、それの二枚目を見てください。この中段やや上にある「Pat.」は患者さんという意味ですが、患者さんが言うには、武蔵野日赤病院のドクターは頸椎のオペ部に小さな損傷を生じたのではないか、現在急性期は過ぎているが、症状が固定するには、今後10か月程度を要するだろうと言われているとのこと。これは、徳見さんが言っていることを書き取られたということですか。 A.そうです。 Q.その下に、「傷病期間は1992年4月25日までだという」ことですけれども、これはどういうことをお聞き取りになって書かれたんですか。 A.多分、彼女が所属していた学校保健会の疾病による治療期間ですか、身分保障の期間が4月25日までだと言われたのを書き取ったものだと思います。私はそう少なくとも認識して書いたと思います。 Q.先程の部分なんですけれども、小さな損傷が生じたかもしれないんではないかというふうになっているんですけれども、診断上、確認できないので、患者さんの主訴に対してこのような回答をしたという可能性も考えられるでしょうか。 A.十分考えられます。 Q.これは一般論としてお聞きしますけれども、診断上、確認できないようなものについて、10か月もの長期にわたる症状固定の期間というのは出すものでしょうか。 A.私には考えられないですね。一般論的には、どんなに長くても三か月程度で様子を見るのが普通です。 Q.(平成6年12月15日づけ被告準備書面末尾添付の「原告の南共済病院における投薬状況」と題する書面を示す)これは、表題にもあるとおり、原告の南共済病院における投薬状況をまとめたものですけれども、これをまとめるにあたり、先生に甲第17号証の大成医師のカルテの内容を整理していただいて、まとめたものですね。 A.はい。 Q.カルテの記載の投薬は、このとおりであるということでよろしいでしょうか。 A.はい。 Q.(甲第17号証を示す)これは南共済病院での大成医師のカルテなんですけれども、これの二枚目、平成2年7月5日欄を見てください。この日は、何か投薬以外の治療はされているんでしょうか。 A.特にないと思います。 Q.その次のページですけれども、平成2年7月19日の日はどうでしょうか。投薬以外に何か治療はされているでしょうか。 A.治療はされていません。そのように見受けられます。 Q.その次のページの平成2年8月4日、ここの三行目にdoとありますけれども、そこはどういうことでしょうか。 A.これは、薬など、前回出したものと同じということでございます。 Q.この日も、投薬以外、特別なことはされているでしょうか。 A.特にないと思います。 Q.その次のページの平成2年8月23日なんですけれども、これの左側に「症状→」とあるんですけれども、これはどういうことですか。 A.私たちが使うときには、変わらないという意味です。 Q.いわゆる症状に変化がないというとき、こういう記号を使うんでしょうか。 A.はい。 Q.それから、ちょっと飛びまして、平成3年1月10日の欄を見てください。このときも「症状→」とありますが、変化はないということですかね。 A.はい。 Q.その次のページなんですけれども、平成3年1月24日、この日は投薬以外に何か治療されたようなことはありますか。 A.ありません。 Q.その次のページで、平成3年2月21日、これも投薬以外に何か治療のようなものはされていますか。 A.ありません。 Q.その次のページの、平成3年2月28日の欄を見てください。これは、ここに書いてるあるように、本件転倒事件の2月26日から二日後の診断のようなんですけれども、このときはどうでしょうか。 A.このときの所見は、ご本人が言われた所見が書かれていると読み取れます。吐き気、だるいということと、左上肢に痛みがあると。それから、四肢の震え、先程言った振戦が亢進していると、それから緊張が強いと。これらのことは、本人が言ったことを書いたものだと思います。 Q.「気分不良にて血圧測定す」とありまして「BP102/74」という記載は、俗に言う、上が102、下が74ということですか。 A.はい。 Q.「ベッド上にて安静にす」とありますね。 A.はい。 Q.それから、ずっと下の方に「BP104/70」で「症状やや軽減」「体が温かくなった由」とありますけれども、これは気分不良だということで、血圧を測定して、ベッドで休まさせて、落ちついてきたので血圧を測ったということで伺ってよろしいでしょうか。 A.よろしいと思います。 Q.そうすると、気分が悪いということで、102/74、落ちついた後の104/70とありますけれども、これは身体的な変化はそれほどないといってよろしいんじゃないんですか。 A.少なくとも血圧の上では客観的変化がないということですね。 Q.それにもかかわらず、病状が軽減したとなっていますけれども、これはどのようなことが考えられますか。 A.その間に「アタP25mg」と書いてあります。これは、アタラックスPという精神安定剤の注射を25ミリ打ったという意味だと思います。 Q.精神安定剤の注射をして、精神的に落ちついたと、そういうことが考えられるということでしょうか。 A.(うなづく) Q.で、これは、いわゆる客観的なものじゃなくて、主訴としての病状が改善したと、そういうふうにみるべきだということでしょうか。 A.はい。 Q.それで、この日の欄に「ナウゼリン」とありますが、これは何を……。 A.これは吐き気止めです。ですから、吐き気を訴えておりましたので、その対症療法として出されたんだと思います。ただ、吐き気を止めるために、ナウゼリンというのは、消化管を支配している自律神経の緊張が吐き気につながるわけで、その自律神経の緊張を抑制する作用を持っていますから、精神的な緊張を抑制するということもねらったのかもしれませんけれども、基本的には、多分、対症療法としてだったと思います。 Q.この日、徳見さんは、大成医師から、一週間の絶対安静を指示されて、トイレと食事以外に起きてはいけないというふうに指示されたというご主張をされているんですが、そのようなことを伺わせるような記載はありますか。 A.ありません。 Q.一般論で聞きますが、患者さんから吐き気やだるいといった主訴があった場合には、お医者さんとしても安静を指示するものなんでしょうか。 A.そう言われて、動けというふうに言うのは勇気がいると思います。ですから、2、3日は一般的に安静、長くても一週間くらいの安静で経過をみるというのが普通だと思います。 Q.(甲第16号証の2を示す)平成3年3月25日の欄を見てください。これはケースワーカーの記録なんですけれども、大成医師と連絡がついたことで、院内で協議したことが書かれているようなんですけれども、その「〈大成Dr〉」の欄に「転倒後週一回の受診を継続中。骨は転倒前後を比較しても変化はなく、現在の症状は心理的なものである」と。それから「転倒後一週間の安静期間後は訓練をおこなうよう指示しているが、体調不良を訴えている」とありますが、これは大成先生が回答したことを恐らく書いたことだと思うんですけれども、この一週間の安静期間、これは先程の先生がおっしゃったようなニュアンスの安静期間ということですか。 A.だと思います。 Q.仮に急を要するような兆候がある場合には、あらかじめ頸椎固定手術をしたような人の場合にですね、入院させるとか、そういうふうなことを指示するというのが一般的なのではないでしょうか。 A.そうですね。首の場合、非常に危険なところですから、たぶんそういうことがあれば入院と。手術をした先生でしたら、当然その責任を感じますので、入院ということになると思います。 Q.(甲第17号証を示す)平成3年3月7日の欄を見てください。これは大成医師の先程カルテの続きなんですけれども、この日のカルテの記載には、投薬以外の何かの記載がありますでしょうか。 A.本人の訴えで、歩けないとか、力が入らないということ以外はないです。 Q.何か特別な治療をしたような記載はありますでしょうか。 A.ありません。 Q.その二枚後くらいなんですけれども、読みづらいんですが、平成3年4月4日だと思うんですね。この日はどうでしょうか。投薬以外、何かされた形跡はあるでしょうか。 A.ありません。 Q.その下の4月18日はどうでしょうか。 A.所見が書いてあるだけです。 Q.投薬以外は……。 A.ありません。治療はありません。 Q.ここの4月18日のときは、時期を見て、Psy、これは原告の翻訳のようなんですけれども、精神科へ相談するとなっておりますけれども、この記載からして、大成医師は主訴の原因は精神的なものだと、そういうふうなことを疑っていたと、そう理解していいんでしょうか。 A.だと思います。 Q.その次のページの平成3年5月2日は、投薬以外、何かされておりますでしょうか。 A.しておりません。 Q.その下の5月16日はいかがでしょうか。 A.ありません。 Q.その次のページの平成3年5月30日は……。 A.特にありません。 Q.その次のページになりますが、平成3年8月30日ですが、これが南共済病院での徳見さんの最後の診察のようなんですけれども、そのカルテの記載において、これも何か検査のようなものが書かれているんですけれども、これはどういうことを意味しているんですか。 A.これは、先程の下肢の腱反射が亢進しているということを意味しています。 Q.この大成医師の所見と、先程の先生が事故後おこなわれた診察とで、どこか違いがございますか。 A.そうですね、腱反射の亢進程度が、大成先生がここに記載されている内容ですと、我々よりも少し強いということがありますが、これは検者の主観ですから、まあどちらとも言えないですけどね。客観的に違いがあるかどうか分かりません。 Q.「動かない」というのは、原告代理人のほうで訳されているようなんですけれども……。 A.Stationary、これは変化がないということです。 Q.「動かない」ということではなくて……。 A.変化がないということです。 Q.そうすると、一番最初の行はどういう趣旨になるんでしょうか。 A.右下肢のつるような感じというものが変わらないということです。 Q.そうすると、「動かない」という記載は、翻訳が間違いであるということですね。 A.はい。 Q.(平成6年12月15日づけ被告準備書面末尾添付の「原告の南共済病院における投薬状況」と題する書面を示す)これの真ん中からちょっと右辺りなんですけれども、原告の転倒事件が平成3年2月26日なんですけれども、この前後を通じて、大成医師の投薬状況からみて、徳見さんに何らかの大きな身体的変化があったと思われる処置がなされる、そういうふうなものが読み取れますか。 A.読み取れません。あるのは、湿布剤だとか精神安定剤とかということで、ご本人の訴えに対してなされた対症療法の薬であろうと……。 Q.そうすると、先程の甲第17号証のずっと転倒事件前後を通してのカルテ、それからこの投薬状況等からみてですね、まあ先程の高塚医師や大成医師から電話で聞き取っている「骨の損傷はない」「受診前後にレントゲン上変化はない」、それはこの投薬状況からみて裏付けられていると考えてよろしいでしょうか。 A.基本的な疾患や障害に対する変化というものを感じ取るものはないです。 Q.(甲第16号証の39を示す)この報告書については、先日宮崎証人が「伊藤先生から報告書を作成して出すように指示されて、3月4日に作った」と証言したんですけれども、そのような指示を出されたご記憶はありますか。 A.あります。 Q.時期はいつごろでしょうか。 A.4日かどうか覚えていませんが、とにかく、この事件の後、それほど長くたっていない時期です。 Q.それは、どういうご記憶から、そんなにたってないといえるんですか。 A.転倒事件を起こしたこの日の様子を、実は主訴がいろいろあったものですから、生活指導員のほうから私は報告をうけました。で、その報告の中で、いろいろと症状を訴えるということで、うちの医師の診察を促したところ、それはいいと、私は大成先生の診察を受けに南共済病院に行くということでした。 それで、その診察が2日後にあるということだったものですから、では様子をみようということで、2日後の診察結果を待って、我々も計画を再びたて直そうと考えていたわけです。 ところが、大成先生の診察を受けた後に生活指導員のほうに入った報告によると、「一週間の絶対安静」ということで、私たちが考えていたような状態ではなかったものですから、もう一回宮崎PTに状況を聞きました。 そうしましたところ、生活指導員から聞いた状況とほぼ同じような内容だったものですから、まあちょっと疑問に感じていたわけです。その後、また、こちらからも連絡を電話でするとかしないとかいう話になったときに、電話も受け付けられないと、そのくらいひどい状態だという話があったという報告を受けました。 これはちょっと異常な状態だと、そう思いまして、とりあえずセンター長にこの事件のことについて報告をしておこうということから、宮崎PTに、事件の様子をきちんと書いて、センター長に報告するようにというような指示を出しました。 Q.そういうことから、二日たった後くらいということですね。 A.はい。 Q.それで、甲第16号証の39の報告書は当然ご覧になっていますね。 A.(うなづく) Q.徳見さんの証言によりますと、転倒事件のとき、伊藤先生が理学療法室にいたと述べているんですけれども、ご記憶はありますか。 A.ありません。 Q.仮に先生がいらっしゃったとして、転倒事件で大騒ぎになれば、当然お気づきになっているはずですね。 A.それそうだと思います。 Q.そのようなことがあったご記憶はありますか。 A.ありません。 Q.(甲第16号証の39を示す)この報告書の中段から下、その真ん中辺りなんですけど、ここに「左下肢は、伸展外転位のまま、右膝を接地した後、右大腿外側より床に座りこんでしまいました」とありますけれども、この「伸展外転位」という言葉は、リハビリの中で通常使われている言葉ですか。 A.そうです。 Q.その次のページを示します。これは図面と絵がついているんですけど、伸展外転位というのは、この右の図でいうと、どれにあたるでしょうか。 A.上から3番目もそうですけど、4番目が一番よく分かると思います。 Q.こういう形をいうと……。 A.はい。 Q.(乙第1号証を示す)写真Aですが、先程の略図でも分からなくはないんですけれども、写真でいうと、乙第1号証の写真のAのような形、これを伸展外転位というのでしょうか。 A.はい。膝が伸びて足が外側に開いているんですね。 Q.徳見さんは、この法廷で、「長下肢装具をつけなくてもつけてあっても、私の左足は自力では横にできないんです」と、こういう運動ができないんですとおっしゃっているんですけれども、徳見さんの身体的機能からみて、左下肢が伸展外転位の状態になることはないのでしょうか A.このように倒れれば、当然なります。 Q.「このように倒れれば」というのは……。 A.右側のほうに倒れれば。 Q.右側前方に倒れれば……。 A.はい、こういう格好になるのは必然的です。 Q.……と言いますと。 A.左の下肢が固定されておりますから、曲げることができませんので、こういう形にならざるを得ない。 Q.右側前方に倒れれば、左下肢が固定されているので、自然に伸展外転位という形にならざるを得ないということですね。 A.はい。 Q.仮に、徳見さんが、右側前方じゃなくて、左側から前方に倒れたとすれば、どのようになりますか。 A.左から前方に倒れるということは、まずないと思うんですが、左側に倒れたら、いずれにしましても、左の膝はギブスで巻かれたように固定されているわけですから、膝をついていることができません。ですので、左側の骨盤から落ちることになるか、左の手を床につけてこれを防ぐか、どちらかになると思います。その場合は左の手に相当な衝撃がきますので、左の手を床につけた場合には、左の手首を骨折したり、骨盤から落っこちれば、骨盤あるいは長下肢装具の外側の支柱と骨とのぶつかり合いが起こりますので、大腿骨を骨折する、そういう危険性が非常に高い、そういう倒れ方になります。 Q.仮に、徳見さんが後方に倒れたとすれば、どのような倒れ方になりますか。 A.後方に倒れたとしますと、左下肢が膝を伸ばした状態で固定されておりますので直接尻もちをつく形になると思います。それで、いわゆる、私たちが床に膝を伸ばして座ったような、そういう状態になると思います。そこまで膝を曲げずにドーンと床に打ちつけられることになりまして、たぶん尾底骨だとか座骨に相当の衝撃がきて、骨折の恐れもあります。 それと同時に、上半身がその勢いで後ろに倒れることを防ごうとする、そういう本能的な反射がありますので、そのためには右の手か左の手を後ろにつくことになります。そうすると、よくあることなんですけれども、右の手首や左の手首の骨折を起こす可能性もおきてきます。 Q.徳見さんの証言によると、尻もちもつかずに、背中から直接倒れたとおっしゃっているんですが、このようなことは考えられますか。 A.まあ、考えられない倒れ方だと思います。 Q.徳見さんは、尻もちもつかずに、いきなり背中を打つように倒れたと述べておられるんですけれども、普通、そのような倒れ方をすると、徳見さんの場合にはどうなるとお考えですか。 A.たぶん、背中から倒れるということになると、体が棒状になったまんま倒れるということになりますので、たぶん貝殻骨といわれる肩甲骨、そこが一番出っ張っていますから、そこを強く床に打ちつけます。その勢いでおそらく頭部が床に打ちつけられることになりまして、肩の肩甲骨の骨折や、あるいは頭部の頭蓋骨の骨折、あるいは頭蓋内の出血を起こす危険性が非常にあって、すぐ救急状態になるということが考えられます。 Q.徳見さんは、尻もちもつかずに背中から倒れて、首を打たないように身を守ったとおっしゃっているんですけれども、徳見さんの身体的機能からみて、首だけを打たないように防御するということは可能なんでしょうか。 A.困難だと思います。少なくとも、その勢いで頭をしたたか床に打ちつけることになると思います。 Q.(平成6年12月15日づけ被告準備書面5を示す)第二の四を示しますが、この部分は、リハビリにおける転換ヒステリーにつき、私どもが先生から論文をお借りして、または先生の説明を伺ってまとめたものですけれども、転換ヒステリーについて一般的にいわれていることは、ここに書かれてあるとおりでよろしいでしょうか。 A.はい。 Q.我々は、ヒステリーというと俗語的な意味で、あまりよい意味では使っていないという関係で、誤解を受けやすい言葉なんですけれども、医学的な意味でのヒステリーというのは、当然そういうものではないですね。 A.はい。 Q.この準備書面の四のところに、中段辺りなんですけども、「抑圧された本能的衝動によって生じた無意識の心的葛藤が何らかの心理的意味をもって、すなわち象徴化されて、麻痺・失立・失歩・失明・失聴などのさまざまな身体症状に転換したり、もうろう・錯乱などの意識野の狭窄や、健忘などの精神症状に解離」すると、こういうふうに書かれているんですけど、これが普通よくいわれる医学的なヒステリーということでしょうか。 A.はい。 Q.この四の最初のほうなんですけれども、「『患者が明瞭なしかも誇張された身体症状を現しているにもかかわらず、それを裏付けるような器質的な障害』がなく、さらなる機能回復が図れてよいはずなのに、一向にその改善が認められない場合」と、こういうふうな場合に、ある程度転換ヒステリーというのが疑われるということなんでしょうか。 A.はい。 Q.転換ヒステリーと詐病とは、どこが違うんでしょうか。 A.転換ヒステリーの場合は、ご本人はウソをついているという意識はありません。何らかのストレスから自分自身が逃れたいという潜在意識の中で、体の調子が悪くなったりする、そういう症状ですから、したがって、潜在意識下のストレスということになります。それによる身体症状、これがヒステリーです。 ですので、本人がウソをついているという意識はございませんから、素人目にも明らかにおかしな、ちぐはぐな行動あるいは動作をすることがしばしばあるわけです。 けれども詐病の場合は、自分が明らかにウソをつくということが前提でございますので、専門科でよく観察をすれば分かりますけれども、そうでない限り、つじつまをちゃんと合わせるような、そういう症状の出し方を致しますので、素人目にはよく分からないと……。 要するに、ウソをついているというふうにはみえないというのが、逆のようですけれども、詐病の症状としてよくいわれるところです。 ただ、詐病と転換ヒステリーとは移行するというふうにいわれます。ですから、必ずしも固定的なものではなくて、詐病・詐病神経症・詐病精神病・ヒステリーというようなものは移行していく、流動的な、そういうふうなものだというふうにもいわれています。 Q.先程の準備書面にも書いてあるんですけれども、「臨床症状を説明し得ない『歩行不能、後弓反張、演戯的転倒や痙攣、閉尿』などを示した例も少なからず」あると、転換ヒステリーが演戯的転倒という形で現れると、そういう場合もあると……。 A.よくあることです。 Q.この準備書面を作成するときに、私どもが先生から、演戯的転倒の場合には無意識的に身体的なものに影響を与えないような安全な方法をとるのが常である、というふうなご説明を受けたんですが、それはどうしてそのようになるんでしょうか。 A.まず、現実からの逃避で起こる身体症状ですから、その裏によくあることが、疾病利得です。例えば労災による障害とか、そういう場合によくあることなんです。その疾病利得があるものですから、それが潜在意識下の問題としてあります。したがって、真に自分自身が損をするような、不利益をこうむるような結果に至る、そういう転倒はしないと、あるいはそういうような事件をおこさないと。訴えはするけれども、器質的な障害を招くようなことは普通はしないのが一般的にいわれていることです。 Q.論文などによると、公傷に多く、私傷に少ない、労災法適用後に多いと、こういうような説明がされているんですけども、これも先程の疾病利得と関係あるということですか。 A.はい。疾病利得が潜在意識下にあるということになりますと、当然、重症であればあるほどその補償が高くなります。したがって、重症性を訴えるということはしばしばあることです。したがって、労災事故で傷害になられた方々の場合によくあることが、リハビリテーションがあとなかなか進まないような状態です。 障害を克服して更生していくという、そういうリハビリテーションがそのために阻害されてしまう。妨げられるということはしばしばあることです。 Q.(乙第5号証を示す)最後から2枚目、「併診のお願い」を示します。どうも南共済で併診のお願いをしたときのもののようなんですけれども、これの「依頼事項」のところに、「術後より左下肢筋力低下を訴え、現在歩行不能状態ですが、器質的なgenesis」 A.ゲネーシス。原因です。 Q.「は、諸検査の結果不明で、神経内科的に見てヒステリーの兆候が大きいとのコメントをいただきました。感情失禁もあり、術前の病歴でもヒステリックな言動が多かったと聞いています」と、これも大成先生から併診依頼が出されているんですけれども、これは、先程の、ある意味では転換ヒステリーをも含んでいる記載と解釈してよろしいでしょうか。 A.大成先生もそう考えていたんだろうと思います。 Q.(甲第16号証の56を示す)これは大成医師からリハセンターへ平成2年8月23日に書かれた紹介状のようなんですけども、この中段辺りからなんですけど「入院中からHysterie的な感情失禁があり、病態も両下肢痙性麻痺はたしかにありますが、それだけでは説明できない+αを有しています。本患者は歯科衛生士で、市に雇用されていました(小学校)が、昭和56年より上肢症状にて公務災害に認定されており、昭和63年公務災害の打ち切り直後に交通事故(オートバイにぶつかった?)にて再度病院通いを続けているなど、不審な点があり、当院における治療・リハビリにおいても多々Hystericな面がみうけられました」とありますけれども、先程も、一応、労災とか公傷にヒステリー的なものがみえている、その疑いもこの紹介状では記載されていると、そういうふうにお伺いしてよろしいでしょうか。 A.はい。 Q.(乙第12号証を示す)陳述書ですが、これは先生がお書きになって、私どもがワープロで作成して、内容をご確認いただいて、そして、署名、押印していただいたものですね。 A.はい。 Q.これの第一の一の3ですけれども、「1990年10月30日の診察所見で、徳見さんが訴えている身体障害は、脊髄神経の器質的損傷によって生じる障害に、心理的反応(心因反応)による障害がプラスされている可能性が認められた」とありますが、入所時というのは、入所時の判定のための診断では、徳見さんの問題というのは、こういうところにあったということでよろしいでしょうか。 A.はい。 Q.ここには「心理的反応による障害がプラスされている」とあるんですけれども、これはどういうことからそうご判断されたんでしょうか。 A.病気には身体的なものと精神的なものと、あるいは両方が混じり合ったものとあると思います。徳見さんの場合は、その両方が混じり合ったものだというふうに思われます。というのは、私たちが――私もそうですし、高塚医師もそうですが、大成医師も同じようだったと思います。いずれにしましても、その身体症状だけをみれば、彼女は最初のこの10月30日の所見から、少なくとも、左の足には短い装具をつけて、右の手に一本杖をつけば、それなりに歩けるというふうにみれる状況だったわけですけれども、彼女は左の足に長下肢装具をつけて、それから両方の手に杖をもつと、これに非常にこだわっていました。それから、訓練のときには、確かに杖で歩いて来れましたけれども、日常的には車椅子に依存する傾向も非常に強くて、疲れたとかいろいろと訴えはあるんですが、それによって車椅子に乗る率も高かったということで、身体症状だけでは説明がつかない、そういう所見があったということです。 Q.器質的な損傷による障害であれば、もっと機能回復が図られていいのに、それの改善状況がみれない、ほかに何か理由があると、それがそこに書かれている心因的要因だというふうにご判断されたということでしょうか。 A.はい。 Q.乙第12号証の陳述書の第二の三に書かれているところですが、ここに「徳見さんのリハビリテーション計画としては、顕在化している身体障害のすべてを器質的損傷によるものとみなし、その訴えをできるだけ受け入れる環境、雰囲気をつくりつつ、まず治療者と患者間の信頼関係を確立することに努めることにしました。なお、この間の機能訓練や社会生活訓練も、脊髄神経の真に器質的損傷の結果生じたと思われる身体障害ではなく、顕在化した身体障害のすべてを受け入れ、それに対する基本的訓練をおこないました」と、こういうふうにあるんですけれども、これがその心理的要因が疑われたときにリハビリテーションセンターで考えた一つの徳見さんに対するリハビリの内容ということでよろしいでしょうか。 A.はい。 Q.(甲第16号証の31を示す)三枚目ですが、平成3年1月19日の欄を示します。これは伊藤先生の所見を高塚医師が書きとめたもののようなんですけれども、ここに「復職を口にするが、本当にそれが本人の希望かどうかは不明。Key personが必要。ヒステリーの原因(職場・sexuality)、訓練は出来るだけ本人の希望に添うように身体障害として扱い、教科書的プログラムを提示し、ある意味で暗示させる」と。これは先程の部分のリハビリの内容がこういうふうに書かれているということでよろしいんでしょうか。 A.はい。一般に、精神的な障害やあるいはそういう心因反応を呈している方々というのは、自分がそういうものだというふうには肯定いたしません。ですから、精神科に行くことも嫌がります。したがって、そういうことをまず拒否いたしますので、そういうアプローチも拒否いたします。したがって、それは全部身体的な器質的な障害から生まれているものだというふうに我々は扱いまして、そして、そのようにご本人との間でも話し合いをして、それで、その身体障害者としてのプログラムを組むというのが一般的なやり方だということです。 Q.(甲第16号証の46を示す)これは、高塚医師が、平成3年1月18日だと思うんですけれども、に出した依頼箋のようなんですけれども、ここのところの中段、中側辺りの下のほうに「各スタッフの対応」と、「本人の希望は可能な限り受け入れる」と、このように書いてありますけれども、これもそのリハビリの現れの一つであると。 A.そうです。 Q.(甲第16号証の47を示す)これは、依頼日がたぶん平成3年2月8日だと思うんですけれども、これも依頼箋のようなんですけれども、「PT訓練時間も1日1時間で十分である旨説明しましたが、可能な範囲内で pat(患者)の希望を入れてください」というのも、これも先程のリハビリの内容の一つと考えてよろしいんでしょうか。 A.そうです。徳見さん自身がPTの訓練を強く希望していたわけで、そのことを、たくさんやっても効果があるわけではないというふうに説明したけれども、しかし、ご本人がそう希望しているということもありますので、それをできるだけ受け入れられる限り受け入れましょうと、そういう方針です。 Q.いわゆる「治療的なリハビリ」をおこなっていくと、そういうことでしょうか。 A.そうです。 Q.これまでの徳見さんの転倒事件前後を通じての身体的な面の変化やリハビリの態度、宮崎理学療法士の報告などからして、徳見さんの転倒は詐病あるいは転換ヒステリーによる演戯的転倒と解する余地は十分あるでしょうか。 A.十分あると思います。 Q.(平成6年4月7日づけ被告準備書面3を示す)この準備書面は当然お読みになっていると思いますけれども、これに書かれている内容が厚生施設におけるリハビリの内容ということでよろしいでしょうか。 A.はい。 Q.(乙第12号証を示す)先生は、転倒事件発生後、主治医のいる医療機関で必要なら併せて訓練をおこなってもらうのが適当であると述べられていますが、その理由がこの陳述書の第四の一に記載された通りですね。 A.そうです。 Q.医学的な面において、信頼関係という面からみて、徳見さんの場合には、転倒事件後もそのままリハセンターでリハビリを続けていたとして、効果は期待できる状態だったでしょうか。 A.期待できないというふうに判断しました。 |