「障害」を理由に解雇されて(13)

 前回書いたように、「生活訓練係(すなわち横リハの更生施設)」では、
    障害の心理的受容を図る。
    復職の可能性を見極める。
    拠点(住居)を中心としたADL(日常生活動作)の確認。
    期間 3ヶ月 その後、職能へ移行

外来受付(90.9.5  
通所訓練開始(9.12入所判定(10.30(判定書)
入所面接(11.22
総合評価会議(12.11
入所(91.1.7
入所訓練開始(1.9初期評価会議1.17
リハビリ計画書(1.31

転倒事故2.26

  リハビリ中断

(以下は予定)
中期評価会議(4.18
終期評価会議
退所(4.30予定)

という方針で「入所」が決定し、3か月間の外来でのリハビリに引き続き、91・1・7から、「入所」リハビリが始まったのでした。
 左の表に、徳見の外来での通所から入所後の流れをまとめましたが、入所後10日経って「初期評価会議」が行なわれています。
 下の表はその資料のPT(理学療法)・心理・職能の部分で、これをもとに、「入所リハビリ」について検討してみたいと思います。

 

PT──「訓練」を放棄
 徳見が最も不満と不信をいだき、抗議と批判を続けてきたPT訓練について、担当の理学療法士・宮崎は、「問題点」として、
 両側ロフストランド杖、左長下肢装具使用して、屋外歩行自立。屋外では、自動車を使用している。
 動作能力に評価結果との食い違い有り、心因性の誘因疑われる。

と書き、「訓練目標」に、
 昨年、9月より週一回の頻度で、訓練を継続してきた。特に、改善見られないので、訓練は、行わない。
と、「心因性の誘因(すなわちヒステリー)」を理由に、訓練を放棄することを表明しています。

 この会議の内容について、生活訓練係(大場)は「ケース記録」に次のように記載しています。

PTH・2・9より、週一回の頻度で訓練を継続してきたが、改善が見られないので、訓練は終了としたい。動作能力に評価結果との食い違いが有り、心因性の誘引が疑われる。「教科書通り」の訓練で、課題の難易度が上げられない。

伊藤Dr.:各訓練において、本人ができそうなものを選択し、目標を1つずつたててゆくことが必要である。また、可能な限り、本人との話し合いによって、訓練を選択し、訓練場面を本人にフィードバックさせる。

白野Dr.PTの要素を継続して、本人に関わってゆくことが必要。

伊藤Dr.:心理的要因があるにしても、絶対、身障者として、教科書通りの訓練を行う。また、できるだけ本人の意にかなう人がキーパーソンになることが必要。

 以上により、PT、心理カウンセリングも継続して行うこととし、3ヶ月を目途とする。

 白野Dr.とは、横リハ外来診療所の所長です。会議では、宮崎が「徳見はヒステリーだから、訓練はしない」と主張し、医師側は「ヒステリーであっても、身体障害者として、きちんとしたリハビリをすべき」として、宮崎に訓練の継続を指示していることが分かります。
 また、初期評価会議のあと、徳見リハチームの高塚医師は「診療部内リハプラン」において、会議の内容を受けて、次のように書いています。

〈ヒステリーに対する対応〉
   1.ヒステリーの原因を把握――心理
   2.身体障害として対応
     本人の希望を可能な限り受け入れる。
     ダメなことは、はっきり理由をつけて断わる。
     本人が納得するプログラムを作成する。
   3.key person(キーパーソン)は、生活指導員。

  これによると、会議では、キーパーソンは生活指導員(井上・大場)とされたようです。
 「キーパーソン」について、横リハは、裁判の主張で、次のように述べています。
 (心因反応による障害の)改善には、患者・治療者間の信頼関係をつくり上げることが治療の第一歩であり、信頼を得た治療者がキーパーソンとなり、……その心理的抑圧を緩和することに努めることが原則である。
 この主張にしたがえば、徳見のリハチームは、キーパーソンとされた生活訓練係を中心に、徳見との「信頼関係をつくり上げる」ことを、最初にしなければならないはずでした(そのキーパーソンが徳見にどんな対応をしたかは、次回に述べる予定)

PT宮崎は、カルテ(下図)にこの日の会議の様子を書いています(裁判用に横リハの弁護士がワープロ化し、カッコ書きの説明を加えたもの。原文は手書き)。

宮崎はDrの発言として、「ヒステリーの診断は慎重に行うべき」だが、「一応ヒステリーとして対応する」、そして、「対応は受容的に行う」と、医師がスタッフに対して、「受容的対応」を求めていることを記載しています。
 それに対して、宮崎は、どう応えようとしたのでしょうか。

 「PTOTPsy」欄の記載で、宮崎本人の主張と思われる部分を見てみましょう。
 「本人の意向を当初は取り入れる。改善は疑問である」と述べており、医者の意見に従って、やむなく訓練継続を受け入れたものの、「とりあえず受容的にやってみるけど、まぁ無理でしょうねぇ」という気持ちのようです。
 また、「本人の状態をチェックする」ために「キーパーソンを決める」というのですから、キーパーソンの役割が何なのか、まるで分かっていないようです。さらに、「評価期間」が過ぎたはずなのに、「詳細な評価を行う」というのです。
 どうやら宮崎は「訓練はしない。しかし評価はおこなう」という気持ちのようですが、実際、それ以後の理学療法の訓練は、信頼関係がないまま、訓練意欲もなく、ただデータをとるだけで、実質的に訓練放棄の状態が続いていきました(その実態は第10回に書きました)。

 心理──「徳見対策」の一環として
 初期評価会議まで、「心理」の時間が3回(各1時間)入っており、1回は通院のためキャンセルしました。下に、臨床心理士・関谷が書いた「記録」の全文を掲載しました(原文は手書き)。
 1・10と1・14の2日間の「面接」の記録と、1・16は初期評価会議の前日に書かれており、会議のための資料作りだろうと思われます。

 

H391.1.10 <初期評価>
 障害状況 経過、訓練目的・現状況について面接
      
 PT訓練、センター自体への不満、ものたりなさを延々と話し続ける。
 多弁で知的にはclearである。が、自分の話に没頭し、自己完結する感じをうける。
 年齢よりも若い(幼い)話し方、動作 印象である。
 「生きがい」「価値観」「レベル(が違う)」等のことば多用。

1.14 <初期評価>
 ・本人の母、本人の娘について
      
  娘とは家事 半々に分担。自立できるように育ててきたと。本人が病気になり、入院等で、実母が同居している期間あり(現在も週何回か)。
 実母の同居は、母にも娘にも「よくない」と。「私の価値観とはずれる関係」と否定。
  頼り合う関係をすべて否定している。また、その関係が母親にとってどうか、というQには思考が向けられない。つまり、そういう発想自体なく、自分が-と感じることは、当然、皆にとって-である(+であるはずがない)という感覚である。
 事実関係を確認するため、<~ということを直接お母さんから聞いたんですか?>とQすると、「常識的にわかることです。母はグチをこぼす人ではないし、私もこぼさない。グチをこぼしてもどうにもならない。私は……」と自分の生き方に話を転じる。繰り返しQをしても同様の反応で、決して、「きいていない」ことを認めない。

 母親は尊敬しており、「少しでも近づく年寄りになりたい」「母をこえることは難しい」。唯一本人を受け入れてきた存在か?

P-FStudy 実施依頼
   「性格検査ですね」と本人
       116受理)↓
     あまり、反応、社会性高すぎ(優等生的な反応)
     妥当性?

 

1.16 〈所見〉
  各担当者への反応がそれぞれ異なり、相手により使い分けている感じが強い。
  相手の注目を引くための行動をとっている(相手が一番反応してくるように)ように思われる。
   母子家庭の母でもある、子でもある人で、人一倍努力し、それなりの成果をあげてきたというプライド高く、自分の価値観に固執。反するものは受け入れられず、自分から拒否し切りすててきている。その分、他からも拒否されているだろうことは、無意識下に押さえ込まれているものと思われる。常に自分が優位に立たないと安心できないため、いろいろな理由をつけ、相手を否定し、不満をぶつけているように思われる。(同じ専門職としてのプライドがあり、かかわる職員を否定→“「指導される側」になるのは初めて”と本人)

 留意点 ①対応する職員は、本人の言動にふりまわされないよう、本人の言ってくることの事実関係の確認必要。本人に情報提供する際にも、本人の意図に注意。
  ②本人への対応、統一
  ③批判、ミスの指摘は避ける
  ④本人の要求に対し、提供できることとできないことの線を明確に伝える。

  Psy counseling  followへの反発強く、デメリット大きいため、Psyの個別対応はstuffからの要請に応じて行なう。                             関谷

 この「記録」に基づいて、「初期評価会議資料」の心理の欄に、関谷は、次のように書いています。
   知的面ではnormal
   高次機能面での問題なし
   障害理解
      現能力、認識しようとしない。
   精神面
     相手により反応が異なり、本人の真意不明(常に注意をあつめたい)
         思いこみつよく、相手の意を考えられない。
       社会性は表面的には高いが、プライド高く、攻撃的で、適応性は低い。

 これについて、「篠原意見書」は次のように述べています。
 (初期評価会議資料で述べられている)臨床像は、原告が「心理的・性格的に問題のある人」であることを強調しているし、「障害の自己受容」「自己顕示性・攻撃性の矯正」「社会的、対人的技術の改善」を目指す「『心理』のカリキュラムが是非とも必要な人」という判断を伝えようとしていると思われる。
 しかし、これでは、身体機能のリハビリ(→職場復帰)の補助的援助としての「『心理』のカリキュラム」という意味合いが見えにくい。この段階ですら「診断」ということに終始しているし、その描き方は「頭の程度は普通だが、性格は悪い」という、救いようのない悪印象に終わっているからである。

 横リハでは、知能テストをはじめ、さまざまな「心理テスト」を行なっていますが、ここでは、「P─Fスタディ」という心理テストについて検討してみたいと思います。

P─Fスタディについて「篠原意見書」は、次のように説明しています。
 対人関係や社会的行動の場面における敵意、攻撃などの感情や欲求不満の処理の仕方(社会適応的か、反社会的・攻撃的か、それとも、非社会的・逃避的かなど)を調べることで、そこに焦点を当てた行動傾向(性格)を診断するもの。

関谷の「記録」に、「PーF Study実施依頼」とあります。徳見が通院のために休んだので、生活訓練係に実施を依頼したのですが、徳見はテストを見て、「心理判定はこれ以上いやだ」という気持ちで、「性格検査ですね」と言ったのでした。このテストの結果を見て、関谷は「社会的に優等生すぎる」として、回答内容に疑問を呈しています。
 「初期評価会議資料」の心理の欄に、関谷は「③社会性は表面的には高いが、プライド高く、攻撃的で、適応性は低い」と書いていますが、自らの主観的な判断を、このPーF Studyの「客観的な?」結果より優先させるという、「臨床心理士」としては皮肉な結果となってしまったようです。
 関谷の「記録」をみると、最初の面接から、徳見へのきわめて否定的な記述に終始しており、横リハの専門家における徳見への「偏見」を共有していることが分かります。
 1・16「所見」欄にある、「(徳見が)同じ専門職として……、かかわる職員を否定」したのは、理学療法士・宮崎と臨床心理士・関谷でした(「各担当者への反応がそれぞれ異なり……」と書いていますが、担当スタッフに聞いて回ったのでしょうか)。したがって、この二人は「専門職としてのプライド」を傷つけられて、宮崎は「徳見はヒステリー」として受け入れを拒否し、関谷は「Psy counseling(心理カウンセリング)のフォローは、反発強く、デメリット大きいため」として放棄してしまったのでした。
 ここに記載されている「留意点」を見ると、「心理テスト」の使われ方や「心理士」の役割の本質が垣間(かいま)見えるように思われます。
 裁判に提出された200枚を超える「徳見関係文書」は、横リハの「専門家」が、徳見の抗議に対して、いかに差別と偏見に満ちた目で見ており、排除しようとしていたかを物語っています(今、その資料をもとに書いているわけですが……)。
 そこには、市行政(および、それと一体である横リハ)の差別的意識と施策があり、徳見は横リハの内部で公然とそれに対して批判の声をあげ、抗議してきたのでした。
 また、以前にも書きましたが、徳見が心理のカリキュラムを拒否した結果、それまで、しかたなく「心理」を受けさせられていた入所者が、ときにはサボタージュしたり、担当者にケンカをふっかけたりして、拒否の動きが、続々と出てきました。
 このような状況の中で、県立七沢リハセンターに習って、「患者会(自治会)」のようなものができないかと思っていました。
 これは横リハ(の「専門家」)にとっては、由々しき事態だったに違いありません。
 P─Fスタディは、このような文脈の中で実施され、関谷が記載した「留意点」の①~④は、横リハの「徳見対策」の一環としての意味をもっていたように思われます。
 「初期評価会議資料」の「リハビリテーション計画・調整事項」に、「障害の心理的受容を含め、自己中心的な性格であり、対応には留意する必要がある」と書かれており、また先に引用した高塚医師も「ダメなことは、はっきり理由をつけて断わる」と書いているのも、関谷の「心理分析」の結果に基づいていることは明らかです。(つづく)